沼名河之 底奈流玉


奴奈川古式御神威手纏

皇紀二六八一年完成

「森羅万象」



いにしえの昔、三諸乃山に向かい祈りを捧し大王。

沼河坐山祇乃神、沼河坐綿津見乃神より下賜されし石達より
古式に則り、完全な手業により御神威手纏に現出いただきました。

大三輪の大神様の「威」をお預かりし、ただただ暗闇の工房に籠り、
井戸から水を汲み、砥石を整え、煤竹を拵え、板砥を研きて段取八割を整え
鵺の声、梟の声を友として、砥石と石と水の奏でる静かな砥音に全神経を集中し、
ただひたすら無心で神に祈り攻めつづけ、窓が白くなる頃に終う。

この時を幾たびも繰り返し、大神乃御時だけで砥ぎ出されし玉たちです。

 その「威」は極めて高く、所有者の方も「威」合わせに
大変な時間がかかっと伺いました。

透ける奴奈川青翡翠による親玉に、強靭な奴奈川瑪瑙を締玉にし、
二種の線刻棗玉を子玉として組上げた自然の「威」の共鳴。

その「瓊音」は使われる方を護る天上の声なのだと思います。



























親玉

青硬玉線刻護玉

小滝川支流から下賜されし極めて美麗な透ける青を持つ
青硬玉による二丁五重線を持つ線刻護玉。

いにしえの技を用いて艶やかに、雄々しく輝く姿が現れました。

手纏全体を統括し統御する奴奈川の「威」でございます。










線刻隅角平棗玉 五珠

様々な石による、様々な光によって「威」が高め合います。

一つとして同じものは無く、複製再現することも絶対に不可能、

各々が調和して一つに纏まり弥栄の風を運んでゆく。

万物に共通する摂理ではないでしょうか。

  

締玉

高品質瑪瑙線刻締玉

持たれる方が直接奴奈川の山神様より下賜されし
極めて堅牢かつ硬い瑪瑙岩塊から
いにしえの倣い通りに一丁四重線刻を持つ線刻締玉を砥ぎ出しました。

全ての珠が持つ「威」の締めを行う重要な玉でございます。










子玉

鉄石英(ゆぶ石)線刻棗玉

山添乃浜から下賜されし鉄石英から古式に則り隅角平棗玉を砥ぎ出しました。

半身に線刻を湛え、ゆぶ石の流紋を併せ持ち高い「威」を放ちます。

大地の躍動をその身に宿す、赤玉の炎でございます。


 



青石線刻棗玉

青石沢の岩塊より流水紋を湛える隅角平棗玉を砥ぎ出しました。

光源によって姿を変える流水の脂肪光沢。

  大海原の流れ、渓谷を抜け渡る水神の「威」を受ける水の棗玉です。


 



水晶線刻棗玉

海岸転石として下賜されし水晶から隅角平棗玉を砥ぎ出しました。

極めて硬い単結晶から生まれる透ける光、そして虹の光彩、
光の当たり方で様々な表情を見せます。

真冬の氷柱のような姿からは純真なる生命の「威」がほとばしります。









コスモクロア輝石線刻棗玉

姫川支流深山の角閃石露頭に入り込む鮮やかな
コスモクロア輝石から隅角平棗玉を砥ぎ出しました。

透緑閃石の深緑、コスモクロアの明緑が渦を巻き非常に複雑な光を放ちます。

放つ光は宇宙からの「威」を発する銀河の棗玉です。
 







隅丸俵形棗玉 十二珠

 
様々な石による、様々な光によって「威」が高め合います。

一つとして同じものは無く、複製再現することも絶対に不可能、

各々が調和して一つに纏まり弥栄の風を運んでゆく。

万物に共通する摂理ではないでしょうか。






子玉

玉髄線刻棗玉

大和河乃浜から下賜されし玉髄から古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

玉髄は非常に強靭かつ硬く砥ぎ込むとガラスのような光を放ちます。

非常に緻密故、内部に独特のインクルージョンを持ち、光源によって
その身に入る角度が変わり全く異なる表情を見せます。


 
光に透けるインクルージョンの光彩




鉄石英(赤玉)線刻棗玉

青海乃浜から下賜されし強烈に硬い鉄石英(赤水晶)から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

この石は赤いその身に透明な石英脈を持ち緻密な結晶により光の角度
種類によって、真紅から深赤色までその姿を変化させます。






緑玉髄線刻棗玉

市振乃浜から下賜されし強烈に硬い緑玉髄(クリソプレーズ)から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

ここまでの光を通す緑玉髄は非常に稀であり貴産です。

緑からだんだんと橙色に近づいて行く色合いには慈愛の「威」を感じます。






霰石線刻棗玉

奴奈川の岩場多き浜から下賜されし橙色の霰石から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

縦に入っている針状結晶の脈に添って玉とすることで、非常に高い
光の透過力を纏い、縦横と光源向きを変えると、薄橙色から濃橙色まで
様々な色合いと肌目を見せてくれます。

その姿は嫋やかな女性のような優しい「威」であり柔らかな雰囲気を放ちます。






黒硬玉線刻棗玉

深き黒姫乃深山から下賜されし漆黒の硬玉から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

黒硬玉、特に漆黒硬玉は個体数が非常に少なく、この玉は岩塊中に緑の脈を持ちます。

非常に強い男性の「威」を持ち、持たれる方を守護します。

武人の棗玉と呼ぶべき古の神籬でございます。






 緑硬玉線刻棗玉

小滝川上流の深き沢から下賜されし独特の緑色硬玉から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

透明度の高い硬玉にオンファス輝石の脈が緑に入り込み、
美しい流れを伴った模様を見せます。

発する「威」は深山に雄々しく立つ大樹の力。

深く優しく温和な表情を見せる棗玉でございます。






橙色大理石線刻棗玉

姫川上流のある支流から下賜されし明るい色合いの橙色大理石から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

この玉には小さな水晶洞がありその中に水晶結晶柱が覗きます。
(この部分は「威」にとって大事ですので写真はご容赦ください)

砥ぎ出しが進むにつれてその肌が詰まり、色合いが濃くなる
不思議な原石から現出いたしました。

洞に天然水晶結晶を持つ神の大理石棗玉でございます。






高品質透緑閃石線刻棗玉

姫川上流のある支流から下賜されし光を透過する濃緑の透緑閃石から
古式に則り隅丸俵形棗玉を砥ぎ出しました。

この玉は硬玉とは異なり、全体が細かい緑色結晶の集合体で、
砥ぎ込むと非常に高い透過とガラス光沢が出てまいります。

もつ「威」は常に深い緑を湛える深山の榊でございます。






紫水晶線刻棗玉(二珠)

白石上流のある支流から下賜されし美しい色合いと光彩を持つ和紫水晶から
古式に則り隅丸楕円棗玉を砥ぎ出しました。

和紫水晶も非常に貴重であり、古代遺跡からも勾玉等として出土しますが
その出土地は地域首長等の館や古墳等であり非常に珍しいものです。

いにしえの大倭紫水晶棗玉に倣い、隅丸楕円線刻玉として現出いただきました。

持つ「威」は非常に柔らかい柔和の力、その威力を用い
締玉須麻流の飾り玉といたしました。




持たれる方の「威」を理解し、材を吟味し、道具を段取りし、深山の工房で
闇夜に鵺、梟を友として、静寂の中で手業を尽くし拵えた神の手纏。

その名を

「森羅万象」



頑固一徹、玉作工人が手塩にかけた神威手纏。

玉作技能の粋を集めた手纏の「威」を感じていただければ幸甚に存じます。

ありがとうございます。



玉作 工人  拝