攻玉手順
一、原石の採集
縄文の頃より奴奈川の人々は長く続く海岸線に出かけ、
海岸に打ち上げられた翡翠の 原石を拾い、玉に磨いていました。
古の奴奈川の工人の道を辿って見ましょう。
古代の遺跡から出土する翡翠原石は、多くのものが周りが丸く磨り減った、
いわゆる 海岸漂石で糸魚川市、青海町の翡翠峡等から採取された物は少ないようです。
私も海岸漂石を主に使いますが、川産の転石も使っています。
海岸漂石と川産転石
ニ、原石の破砕
海岸漂石の場合は、大きさもありませんので色合いの美しいところ
を生かしつつ、最良の形をイメージしながら直接荒研磨をかけ、
加工基準の二平面を生んで行きます。
写真のような神の領域の原石の場合、その攻玉には非常に神経を使います。
川産転石の場合は、そのままでは玉と出来ないので、 拾って来た原石の石の目を見極め
その目に沿って大雑把に破砕し目的とする大きさとします。
その後、加工基準となる平面を砥石を使って研ぎ出します。
石目の向きに沿って一気に打撃を加えて「破砕」完了。
三、二平面出しと背面出し
荒破砕が完了したら平砥石を使って加工基準となる二平面を砥ぎ出します。
この工程は一見単純ですが、この工程は全ての基準になる極めて大事な工程です。
二平面出しが完了したら、背部の曲線を生んで行きます。
全体のバランスを考えながら筋砥石で砥ぎ減らして行きます。
背部の砥ぎだしが完了したら、それまでの頭の中のイメージを砥ぎ出し完了した
原石に書き、玉の姿をより強く出せるように進めます。
その際に、魂入れ(穿孔)の場所も確定します。
四、錐による穴あけ
縄文時代の硬玉(翡翠)大珠などの見事に開けられた穴を観察すると、
最初から最後迄同じ口径で穴が穿たれています。
これは竹などのパイプ状の錐で穴を穿った なによりの証拠です。
私の実験では、玉として使われる翡翠以外の石(碧玉、緑色凝灰岩等) には鋼鉄製の平錐で
穴を穿つ事が出来ましたが、翡翠の場合まったく歯が立たず、管錐と媒材
を使って、
少しずつ翡翠を減らし、穴を穿つ事が最良かつ最速である事が実証できました。
管錐による「へそ」の発生、
切り残った「へそ」と穿孔完了した硬玉
穿孔部の回転線条痕(管錐穿孔の証拠)
五、抉り研磨、仕上げ外形研磨、穿孔部仕上げ
穿孔が完了したら砥石を使って最終外形研磨を行いバランスをとります。
腹の抉り研磨、開けた穴の仕上げ整形を行い ます。
この工程には順番は無く、玉の状態を見ながらこの工法を組み合わせて攻玉します。
ここで魂に迷いがあると、良いものが出来ませんから「気合」を入れてかかり、
原石と語らい、持たれる方の魂を感じながら一気に進めます。
この工程では、砥石の粒度をだんだん細かくして、石の表面を平滑に仕上げて行きます。
玉作 工人が使う通常の砥石は「荒、中、仕上げ」の三種類と磨き込み用川砂です。
内磨砥石は力を入れて素早く一気に振り込みます。
板砥石による腹部調整と竹製拡張錐による穿孔部整形
内外形整形、穿孔部調整完了
手指を使って細部の磨き込みを行います。
この工程では必要に応じて、板、革紐、革、荒縄などを組み合わせて磨きこみます。
六、仕上げ研磨
砥石による研磨が完了した後、荒布に川砂をつけ研磨、
その後木砥(桐の板)で研磨し最後に木綿で研磨を行います。
あまり力を入れず、素早く長いストロークで磨きます。
ここまで来るのに、長さ3p大の玉で加工に要する時間は約40時間 程度必要です。
最後の磨き込み迄来たとき、それまでの作業の成否が見える形で現れます。
手を抜いて研磨を行えば、そのキズは仕上げ時にしっかり残ります。
精魂込めて工程を進めれば、仕上がりは最高です。
奴奈川硬玉の平滑に磨かれた絹の輝きは、機械成形では絶対出せない神の輝きなのです。
七、完成
「奴奈川の石」は磨き抜かれることで、「奴奈川の底なる玉」に生まれ変わります。
手による研磨は絹の光沢を持ち、光を魅力的に反射させ輝きます。
古代にこの技術を確立した奴奈川の匠達は、縄文時代から続く研磨技術
を皇室の三種の神器
の一つにまで高めた、まさに日本で最初の職人たちだったのではないでしょうか。
玉匠工房