製品から見分ける、
手仕上げ一品物と既製量産品の差


私の攻玉工房で紹介させていただいたように、玉の作成には膨大な時間が必要です。
しかし、コマーシャルベースで製品を作るためには生産性の向上(機械化)
がどうしても必要になります。
これが無かったら量的にも極めて少なく、価格的にも非常に高価なものになってしまい、
古代のように一握りの人のみしか所有出きなくなってしまいます。

私が行った実験考古学の結果から各工程毎にその違いについて説明を行います。


一、工程別攻玉法の違い

手仕事 動力機械
原石破砕 石目に沿って直接打撃による破砕 ダイアモンドカッターによる切断
加工基準平面出し 敲石による敲打、砥石による研磨 ダイアモンドカッターによる切断
外形研磨 筋砥石による研磨 電動グラインダーによる研磨
えぐり研磨 内研磨砥石による研磨 電動グラインダー、ダイアモンドバーによる研磨
穿孔 平錐、管錐による回転、打撃穿孔 超音波穴開機、ハンマードリルによる穿孔
仕上げ前研磨 筋砥石、内研磨砥石の粒度調整による研磨 電動グラインダー砥石粒度変更による研磨
最終仕上げ 川砂を用い荒布で研磨後、桐砥による研磨仕上 バレル研磨による仕上げ

古代同様の手仕事と現代の大量生産手法の間には上記ような加工の差があります。
上記の工程別項目を説明致します。

一、原石破砕
手仕事の場合あまり大きい原石は正直破砕できません。
強靭な結晶組成によりハンマーで打割ることの出来る大きさには限界があります。
石の脈(石目)に沿って打ち割ることが出来るのは、
私の実験では直径20センチ位が限界でした。

量産工法のダイアモンドカッターを使う工法ではカッター直径の
半分位の原石まで切ることが出来ます。
原石があまりに大きいものはダイアモンドカッターではなく
チェーンカッターにカーボランダムを注ぎながら時間をかけて切っているとのことです。
私の実験でも弓に針金を張り、それにカーボランダムを注ぎながら引く事で
直径3センチの硬玉を15分位で切断する事が出来ました。



ニ、加工基準平面出し
玉のデザイン、穴位置の基準となる平面を作ることから実際の攻玉が始まります。
手仕事の場合、荒割りした原石の表面を別の石(敲石)で叩き高い部分を減らします。
その後、平砥石を使いニ平面を砥ぎ出します。

量産工法の場合は、ダイアモンドカッターを使い任意の形にほんの数分で加工できます。



三、外形研磨
手仕事の場合、筋砥石に水と川砂を注ぎながら大体の形になるまでひたすら研磨します。
これによって大体の外形が出来てきます。

量産工法の場合は電動グラインダーに石用の研削砥石を使用し、水を少しずつ注ぎながら
ほんの数分で研削できます。ただし電動グラインダーの場合は一度に多く研削されてしまう事、
水の注水が途切れた場合は翡翠が焼けて、あっと言う間に大きなひびが入ってしまう事、
研削に伴う熱で石そのものの透明感が損なわれる事、などが実験の結果わかっています。



四、えぐり研磨
手仕事の場合、内研磨砥石を使用してただひたすらすり減らして行きます。
えぐり研磨を行う事でだんだん勾玉のように見えてきます。

量産工法の場合はほとんど三の外形研磨と同じですが、厚さの薄い砥石を使います。
又はボール盤にダイアモンドロータリーバーを装着してえぐりを入れる場合もあり、どちらの
方法を使っても所要時間は数分から数十分です。



五、穿孔
手仕事の場合、勾玉で翡翠は管錐、その他は平錐、大珠はすべて廉竹を使い、
川砂(これには多くの細かい石英が入っている)を媒材に用いて穿孔を行います。
この工程が一番気を使い、時間もかかります。
この工法で明けられた穴は、ほとんどの場合孔の最初から終りまで真直ぐに同じ径
で孔が穿たれており、回転線条痕が残ります。
この工程がここが一番技術を要する工程です。

量産工法では超音波穴あけ機を使って、厚さ数センチの翡翠にものの数分で孔
を明けてしまいます。
ほとんどの場合明けられた孔の断面形状は始めが広く、
終りが狭い緩やかな V形状になっています。
明けられた孔の切削面に回転線条痕が無いことも超音波穴あけ機使用の決め手になります。



六、仕上げ前研磨
手仕事の場合、平砥石、筋砥石、内研磨砥石の三種類の粒度を数種類くみ合わせ、
玉の全体が平滑になるまで磨き込みます。
研磨がうまく進むと表面粒度が細かくなり表面が濡れたように光り出します。

量産工法では電動グラインダー、電動ベルトサンダー、ダイアモンドロータリーバー
などを使用し最終的な形を作り出します。
最終仕上げで艶を出すため、この工程での磨きこみは行いません。
所要時間は数分から数十分です。



七、最終仕上げ
手仕事の総仕上げをここで行います。
荒布に粒度の細かい川砂をつけてひたすら手で研磨します。
ここまでの作業がきちんと進められたかどうかはここで判明します。
どこかの研磨工程で手を抜くと最終工程で凹み、きず、表面の曇りなどとして出てきます。
最後に桐の板を使って研磨し完成となります。

手仕事で作った玉はしっとりとした平滑な艶が出て
非常に綺麗なものです。



これに対して量産工法では六で行った研磨済み製品を一度に仕上げ研磨を行います。
バレル研磨という研磨方法を用いますが、この手法は多くの工業で用いられている手法で
樽(バレル)型の入れ物に被研磨物(勾玉)、研磨石(セラミックや自然石)
コンパウンド(研磨剤)、水を入れそのバレルを密封しバレルそのものに
回転を加え研磨するものです。
これにより短時間で一度に大量の研磨が出来る上、極めて硬い翡翠のような石でも
ラッカーでも塗ったかのような光沢を与えることができます。
この手法で完成された勾玉などの石製品の表面は非常に高い光沢をもちますが、
その表面の仕上がりは、あたかも自動車の焼きつけ塗装のように波を打っています。
ここで量産手法で作られたか否かを見分ける事が出来ます。



当然の事ながら、遺跡からこの手の表面仕上げを持つ勾玉は決して出土しません。

両者を並べるとその差歴然です。


勾玉入手の際の参考になれば幸いです。


玉匠工房